こんにちは!r-youngです👍
術直後(入室〜6時間後)シリーズ最後のセクションです。
術後集中治療管理では全身をくまなくアセスメントし介入する必要があります。
呼吸循環動態だけでなく全身臓器をアセスメントする必要があるんですね。
(カルテ記載法のby systemの考え方です)
今日は心臓血管外科術直後において、呼吸循環以外のアセスメントポイントをまとめてみました‼️
腎・電解質管理
心臓血管外科手術後の患者管理において、腎機能と電解質バランスの維持は重要な課題です。手術中および術後の身体的ストレス、輸液や輸血、使用薬剤により、これらのバランスが大きく変動する可能性があります。以下に、尿量のフォローや電解質の補正に関する主要なポイントをまとめます。
尿量のフォロー
- 多尿の原因: 術直後に多尿となる理由には、低体温や人工心肺使用中のマンニトール投与などがあります。
- 尿量と血行動態: 尿量の増加は必ずしも術中におけるボリューム負荷による反応性の尿量増加とは限りません。そのため、末梢循環不全の徴候に注意しながら、適切な輸液管理が必要です。
- 尿量減少と循環不全: 尿量が少ない場合、それ自体が末梢循環不全の兆候である可能性があります。尿量の監視を通じて、患者の循環状態について継続的に評価することが重要です。
電解質の補正
- 電解質変動: 多尿、輸液、輸血などにより電解質の血中濃度は変動しやすくなります。特に、カリウムとマグネシウムの数値(低下)には注意が必要です。
- カリウムとマグネシウムの重要性: これらの電解質の低下は、術後心房細動のリスクを高めることが知られています。そのため、術後早期から電解質レベルのモニタリングと必要に応じた補正が推奨されます。
- 補正の実施: 電解質の異常を早期に認識し、適切な補正を行うことで、術後の合併症リスクを低減し、患者の回復を支援します。
腎機能と電解質バランスの管理は、心臓血管外科手術後の患者における合併症の予防および回復促進において、重要な役割を担います。適切なモニタリングと介入により、患者の安全と快適性を確保することが目標です。
内分泌(血糖)管理
心臓血管外科手術後の患者における内分泌管理の一環として、適切な血糖管理が非常に重要です。手術ストレス、麻酔、投与される薬剤などにより、血糖値は大きく変動する可能性があります。適切な血糖コントロールは、感染リスクの低減、創傷治癒の促進、さらには全体的な回復の加速に寄与します。以下に、血糖管理に関する基本的なガイドラインをまとめます。
血糖値の目標範囲
- 目標血糖値: 術後の患者においては、140~180mg/dLの範囲内で血糖を管理することが推奨されます(各施設基準を確認して下さい)。この範囲は、過度な高血糖および低血糖のリスクを避けつつ、最適な術後回復を支援するためのバランスを取るものです。
血糖管理の方法
- スライディングスケールによるインスリン管理: 術後直後から経口摂取を開始するまでの期間、血糖値に応じたスライディングスケールを用いたインスリンの持続静注を行います。スライディングスケールは、患者の血糖値を定期的に測定し、その結果に基づいてインスリンの投与量を調整する方法です。
血糖管理の注意点
- 血糖値の頻回測定: 血糖管理の効果を最大化するためには、血糖値を頻繁に測定し、必要に応じてインスリン投与の調整を行うことが重要です。私の施設では術直後(ICU入室後6時間まで)は血糖チェックは2時間毎に実施しています。
- 低血糖のリスク: インスリン治療を行う際は、低血糖のリスクにも注意を払う必要があります。特に、持続静注を行う場合は、患者の血糖値を密にモニタリングし、低血糖を早期に発見して対処することが必要です。
血糖管理は、心臓血管外科手術後の患者における全体的なケア計画の重要な部分を占めます。適切な管理により、術後の合併症を防ぎ、患者の快適性および回復を促進することができます。
血液管理
心臓血管外科手術後の患者管理において、出血管理は患者の安定と回復を確保するための重要な要素です。出血は重篤な合併症を引き起こす可能性があり、迅速な識別と対処が求められます。以下に、出血管理のための主要なポイントをまとめます。
出血の確認方法
- バイタルサインの変化: 血圧の低下、心拍数の上昇、呼吸数の変化など、バイタルサインの変動は出血の早期警告信号となり得ます。
- エコー所見: 心エコーは、心タンポナーデやその他の術後合併症の有無を評価するのに役立ちます。特に、液体の貯留や心機能の変化を観察することができます。
- ドレーンの観察: サージカルドレーンからの排液量や性状を観察することで、出血の有無や程度を判断します。急激な排液量の増加や、排液の色の変化は、注意が必要です。
- 再開胸の基準:具体的には、手術直後の最初の1時間に400~500mL、次の2時間で300~400mL、そして3時間目で200~300mLの排液が続く場合が再開胸を考慮する一つの基準となり得ます。しかし、この基準は体格による個人差が影響を受けるため、一律に適用することはできません。特に、ドレーンによる排液が不十分で心タンポナーデが生じている状況では、再開胸手術をためらうべきではありません。そのため、各医療施設は独自の再開胸手術の基準を設け、適切な判断を下せるようにすることが推奨されます。
出血管理のためのアプローチ
- 総合的判断: 血液検査の結果だけでなく、上記に示したようなベッドサイドで直ちに得られる所見を総合的に判断することが重要です。これにより、出血が進行する前に早期に介入することが可能になります。
- 出血の見逃しリスク: 出血を見逃すと、出血性ショックや心タンポナーデによる閉塞性ショックを引き起こす危険があります。これらは患者の生命を脅かす重篤な状態です。
- 追加検査の実施: 出血の原因や位置を特定するために、必要に応じてCT検査や経食道心エコー(TEE)などの画像診断を行います。これにより、適切な治療計画を立てることができます。
出血管理においては、患者のバイタルサイン、エコー所見、ドレーンの状態など、複数の指標を総合的に評価することが重要です。迅速な評価と適切な対応により、術後の出血による合併症のリスクを最小限に抑え、患者の安全を確保することが可能になります。
感染管理
心臓血管外科手術後の患者における感染管理は、回復を促進し、合併症を最小限に抑えるために極めて重要です。手術部位感染(Surgical Site Infection, SSI)は、手術後の合併症の中でも特に注意を要するものの一つです。以下に、SSI予防に関する基本的なアプローチをまとめます。
SSI予防の為の適切な抗菌薬使用に関してはに関してはこちらのガイドラインを参照すると良いです。
http://www.gekakansen.jp/201508_guideline.pdf
SSI予防のための抗菌薬投与
- セファゾリンの使用: セファゾリンは、黄色ブドウ球菌や皮膚ブドウ球菌など、手術部位感染の一般的な原因となる菌種をカバーする抗菌薬です。手術時に予防的に投与され、術後感染リスクを低減します。
- 投与期間: 一般的に開心術であれば、術後48時間はセファゾリンの投与が推奨されます。これは、手術関連感染のリスクが最も高いとされる期間をカバーするためです。
MRSA保菌者への対応
- MRSAの保菌が確認された場合: MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の保菌が術前検査で確認されている場合、セファゾリンではなくバンコマイシンの投与が適切です。バンコマイシンはMRSAに対して効果的な抗菌薬であり、耐性菌による感染リスクを低減します。
- バンコマイシンの用法・容量: バンコマイシンの用法や容量については、患者の体重や腎機能を考慮して決定されます。正確な投与量や投与スケジュールについては、薬剤師に確認することが重要です。薬剤師は、薬剤の適正使用に関する専門的な知識を持っているため、安全で効果的な抗菌薬治療を提供するための重要なリソースとなります。
SSI予防は、手術後の患者ケアにおいて重要な要素です。適切な抗菌薬の予防的使用は、感染リスクを著しく低下させることができます。MRSAなどの耐性菌の存在が確認された場合は、特定の抗菌薬への切り替えが必要となることもあります。感染管理のためのプロトコルに従い、薬剤師や感染症専門医と連携することで、患者の安全を確保し、手術後の合併症を最小限に抑えることが可能になります。
体温管理
心臓血管外科手術後の患者管理における体温管理は、合併症の予防と患者の快適性向上に非常に重要です。手術室や麻酔の影響で低体温になることが一般的ですが、これを放置すると様々なリスクが高まります。以下に、体温管理に関する重要なポイントをまとめます。
体温管理の重要性
- 低体温の影響: 手術中や術後の低体温は、麻酔薬の効果が長引く原因となり、凝固障害、血小板機能の低下、感染症リスクの増加、心筋虚血、不整脈など、多くの合併症につながる可能性があります。
- 体温維持の目標: 患者の体温を最低でも36°Cに保つことが推奨されます。これは、上記のリスクを最小限に抑え、術後回復を促進するためです。
体温管理の方法
- 加温措置の実施: 入室直後の患者に対しては、電気毛布、温水循環マット、温風吹き出しシステムなどを用いた加温措置を行います(最近は温風加温器がほとんどですかね?)。これらの措置は、患者の体温を効率的に、かつ安全に上昇させるためのものです。
- 四肢関節の触診: 体温が十分に上昇しているかを確認するために、腋窩皮膚温や膀胱温に加えて、四肢関節部の温かさを触診します。四肢関節部が適切に温まっていれば、体の中心部も適切に温まっている可能性が高いです。また、四肢の温度は、全身の循環状態を反映することもあります。
体温管理は、術後の患者における基本的なケアの一つであり、合併症の予防に直結します。適切な体温維持は、患者の快適性のみならず、術後回復にも大きく貢献します。看護師や医師は、体温管理を含めた全身状態のモニタリングを行い、患者が安全に回復するよう支援する必要があります。
まとめ
いかがでしたか?
今回、術直後シリーズとして複数回にわたってまとめてみました。
今回記載した内容以外にも多くの観察・アセスメントのポイントがあると思います。
また、各医療施設によっても基準などは異なります。実際の術直後管理は主治医と綿密な連携をとりながら実践していくことが重要です。
NPはそれらを統合的に評価しながら医師・看護師・臨床工学技士などの医療者と協働して症状マネジメントを実践していく必要があります。
今回のシリーズを読んでご意見やご助言、感想がありましたらいつでもコメントください‼️
ではまた‼️👋
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